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- 2024/09上旬
日本国債の日銀保有を中心に据えて全面改訂。 - 2023/08上旬
日本国債の日銀保有割合の
急上昇を加味して加筆修正。 - 2023/07下旬 初稿公開
国債発行残高の増加については,楽観論もある
日本は国際的に見ても財政赤字が酷く,
現在も年数十兆円のペースで
国債残高が増え続けています。
この調子で国債が増え続けるのは
まずいのかそうでもないのか,
経済界では意見が割れているようです。
素人感覚では,当然まずいはずですけれど,
意外なことに,それを問題視しない楽観論も
根強いらしいです。
そこで,この記事では,財政規律の現状と,
国債残高に関する楽観論について考えていきます。
結論を先に知りたい方へ
この記事の主張を先に確認したい方は,
次の開閉ボックスを開いてください。
この記事で主張すること
- 国債残高が際限なく増え続けるのはやはりNG。
どこかでは止めないといけないはず。 - 日本国債は,最近はまともに市中消化もできていない。
実質的には,日本政府が日本銀行に
国債を買わせているも同然。
すなわち,日本の財政規律は既に崩壊している。 - 日本国債の無限増大に対する楽観論はどれも無理筋。
それは多くの人が気づいているはず。
しかし,国債残高の減らし方が分からないので,
国債が増えても大丈夫という説に縋っているだけ。 - たとえ日本国債に対する楽観論が正しかったとしても,
このまま国債残高が増え続ければ,
念のため日本円から手を引こうという動きが
外国人投資家の間で広がる可能性が高い。🛎️ そうなれば,日本円や日本株の暴落は
避けられません。 - 国債を全て返し切って,
残高ゼロにしてしまう必要はない。
適正な範囲で国債残高が増減する
安定状態を目指したい。
それでは,本論に入ります。
日本の財政規律は,既に本格的に破綻している
最近の日本国債は,市中消化すらできていない
国債は,市中消化が基本です。
すなわち,民間の企業や個人に売るのが基本です。
これは特に異論のないところでしょう。
しかし,最近の日本国債は
まともに市中消化できていないという事実は,
どの程度知られているのでしょうか。
これを日本政府に言ったら反論されるのでしょうけどね。
我々は全ての国債を民間で売っていると。
それ自体はおそらく嘘ではないのですが,
現状では,民間部門が保有する日本国債は,
発行済み日本国債の半分にも満たないのです。🛎️
2024年半ばの時点。
では残りの半分以上は誰が持っているのかというと,
日本銀行(日銀)です。
ネットで軽く調べたところによると,
日銀の日本国債保有額は2012年頃から増え始め,
2024年半ばの時点では600兆円程度に上っているようです。
同時点での発行済み国債残高は1100兆円程度のはずなので,
その半分以上を日銀が保有していることになるのです。
国債の日銀引き受けは禁止されている
中央銀行による国債引き受けとは,
中央銀行が通貨を発行して,
自国政府が新たに発行した国債を購入し,
政府に資金を提供することです。
これは国債の市中消化の原則に反しており,
非常にまずいこととされています。
それはそうですね。
それを許せば,政府は好きなだけ自国通貨を発行して
資金を調達できることになりますから。
財政規律は崩壊し,その国の通貨は信用されなくなって,
通貨の大暴落を引き起こすでしょう。
ということで,さすがに日本でも,
日本国債の日銀引き受けは禁止されています。
(財政法第5条)
日銀が国債を保有できている理由
財政法によって,日本政府が新規に発行した国債を
日銀が直接買うことは禁止されている。
ならばどうして,日銀は国債を保有できているのか。
それは,既に市中消化された国債,
すなわち民間部門が保有している国債なら,
日銀が買うことも許されているからです。🛎️
国会の承認が必要ですが,
日本の政府与党なら
あってないような制約でしょう。
その行為は「買いオペ」と呼ばれ,
日本ではよく行われています。
日本政府は間接的に新規発行国債を日銀に買わせている
国債引き受けは禁止していながら,
買いオペは普通に行う。
これは 重大な抜け穴 と言わざるをえないでしょう。
というのも,これでは,日本政府は,
国債引き受けが認められている場合と何ら変わりなく,
好きなだけ資金が調達できてしまうからです。
例えばの話ですが,日本の民間部門における
日本国債への需要総量が500兆円であるとします。
そしてその需要は既に満たされている,
つまり500兆円分の日本国債が既に
日本の民間部門によって保有されているとします。🛎️
仮定の話としていますが,
実態とそう大きく違わないでしょう。
この状況下で,日本政府が
30兆円分の国債を新規発行したいと考えた場合,
どうしたらよいでしょうか。
日本の民間部門における日本国債への需要は
既に満たされているため,
日本政府が新たに国債を発行しても買ってもらえません。
しかし,新規国債を日銀に直接売ることは
財政法で禁じられています。
ではどうするか。
別に難しくもありませんね。
民間が保有している国債を,
日銀に30兆円分だけ買いオペさせればよいのです。
そうすれば,民間が保有する日本国債は470兆円分となり,
総需要量である500兆円に30兆円足りなくなります。
ゆえに,日本政府は,民間に30兆円分の新規国債を
売るだけの余地が生じたことになります。
この手法を使えば,日本政府はいくらでも,
間接的に日銀に国債を売って資金を調達できますよね。
これが財政規律の崩壊でなくて何ですか。
日銀の国債引き受けと,一体何が違うのですか。
日本政府は,普通の売り方では買ってもらえなくなった国債を,
大量に日銀に持たせることによって,
市中消化の体を繕っているだけです。
おそらくは意図的に。
要するに,日本の財政規律は,
とっくに崩壊しているのです。
日本国債無限増大に対する楽観論は,どれも無理筋
増え続けるのを是とするのは,やはりNG
上に述べた買いオペのことがなくても,
国債の発行残高が際限なく増え続けるのを是とするのは,
やはりNGだと思います。
人口や経済規模が増大し続けているわけでもないのに,
ある集計値がすごい勢いで増え続けているという
事実だけでも怖いです。
それが行きすぎたらどうなってしまうのかと
不安を感じるべきではないでしょうか。
現在の国債発行残高の増加ペースは,
どこかで止めなければならない。
それは絶対だと思います。
「国債は国民の借金ではない」は無理な主張
国債は政府の借金であって国民の借金ではないとの
主張がネットで散見されますが,
無理があると思います。
国債とは,法人「国」の,
国債を保有している人に対する借金です。🛎️
国が法人かどうかは議論があるようですが,
ここでは重要ではないのでご容赦ください。
ただし,法人「国」が直接この借金を
返せるわけではありません。
国の主な役割は,市場に任せていては供給量が不足する分野,
すなわち金銭的な利益が見込めない分野の事業を行う,
あるいは補助することです。
しかし,法人「国」が直接借金を返そうとするなら,
国が営利目的の事業を行い,
数百兆円単位の利益を上げる必要があるでしょう。
それは国の役割に反します。
日本国債の残高が増えすぎて減らしたい場合,
あるいは増えすぎないように抑制したい場合は,
日本国民が納めた税金で国債の利払いや償還を
行うしかありません。
そう考えると,事実上,
日本国債は日本国民の借金という認識で正しいと思います。
「債権者も日本人だから問題ない」は無理な主張
2022年頃の時点では,国債の9割以上は
国内消化であると言われています。
つまり,日本国債の大部分は,
日本国民(企業含む)が所有していることになります。🛎️
日銀保有の分を除けば。
国債は法人「国」の借金であり,
事実上は納税者である国民の借金ですが,
債権者も日本人なのだから,
借金だけが増えているわけではない。
債権と債務が同じ額ずつ増えているだけだから問題ない。
のように主張する声も聞き覚えがあります。
しかし,その意見は,
債権者と債務者が異なる人物であることを
考慮に入れられていないのではないでしょうか。
債権者と債務者が同一人物であるならば,
債権残高と債務残高が同じ額ずつ増えても,
確かに問題はないと思います。
しかし,異なる人物であれば,
その論理は全く成り立ちません。
身近な例え話
Aさんが誰かから,
身の丈に合わない高額な品物を購入し,
Bさんから借金して支払いました。
その結果,Aさんは債務が増え,
Bさんは債権が増えました。
その後,同じような調子で,
AさんがBさんに対し,借金を繰り返したとします。
これを見て,
Aさんの債務残高とBさんの債権残高が
同じ額ずつ増えただけだから問題ない
などと主張する人はいないですよね。
Aさんがこの調子で債務を増やし続ければ,
Bさんの債権がどれだけ増えようと関係なく,
Aさんは破産に向かうに決まっています。
そして当然ながら,AさんとBさんが
両方とも日本人であったとしても,
全く何の関係もありません。
こんな例え話は当たり前すぎて馬鹿馬鹿しいのですが,
これは現代日本において,
国と国債保有者の間で実際に起きていることです。🛎️
国がAさん,国債保有者がBさんですね。
前述の通り,国の借金は納税者である国民が返すので,
「国民がAさん」と考えてもよいでしょう。
それを問題視しない人が少なからずいるというのは,
不思議で仕方がありません。
「景気が回復すれば返せる」の論理ももう捨てよう
政府支出を増やして景気が回復すれば,
税収が増えて国債を返せるという説もよく聞きますが,
筆者は否定的です。
景気回復で税収が増えると言っても,
税収の増加幅は数兆円から十数兆円程度でしょう?
例年,日本の国債残高の増加幅は
数十兆円に上ります。
景気回復による税収増が
焼け石に水でしかないことは,
皆さん分かっているはずです。
その考えに縋るのはそろそろやめて,
現実を直視していただきたいのです。
同様の理由で,
- 税金の無駄遣いをやめれば解決する
- 政治家の人数や報酬を削減すれば解決する
のような主張も妥当でないと思っています。
これらの問題にメスを入れることには
特に反対しませんが,
捻出できる金額としては
やはり焼け石に水なのでは?
と思うからです。
楽観論者の方は,早く目を覚ましてください
そもそも,本当に問題ないと思ってる?
国債残高の際限なき増加について
楽観論を述べている方に問いたいことがあります。
そもそも,本当に問題ないと思ってますか?
現在1000兆円余りと言われる国債残高が,
3000兆円になっても5000兆円になっても問題ないと
思っているのでしょうか?
本当は,直感的には国債残高の増加を
危ういと思っているのではありませんか?
本当は,経済を犠牲にすることなく国債残高の増加を
止められるのであれば止めた方が安心ではあると
思っているのではありませんか?
でもその方法が見つからないから,
国債は増えても大丈夫という説に
縋っているのではありませんか?
国債残高に関して楽観論を述べたがる人の思考は,
次のようなものだと推察しています。
経済を正常化するにはGDPを増やす必要がある。
そのためには,政府支出の増加が必要。
そのためには,国債の追加発行が必要。
国債残高を気にする必要がなければ,
政府支出を増加させられるのに!
このような思考で目を曇らせて,
直感的には国債残高の無限増大を
危なっかしいと思っているにもかかわらず,
その直感に蓋をしてしまっているのではないですか?
筆者の問いかけに少しでも心当たりのある方は,
改めて,まっさらな状態から
自問自答をしていただければ幸いです。
思考のバイアス(先入観など)や
このような結論に繋げたいといった雑念を
できる限り捨てた上で。
それでも,今と同じ結論にたどり着くなら,
仕方ありませんが。
国債無限増大に対する楽観論は,たとえ正しくてもダメ
仮に。仮にですよ。
仮に楽観論者の意見が正しくても,
このまま日本国債残高の無限増大が続けば,
外国人投資家の行動への影響は避けられません。
ただでさえ,楽観論者の言い分は,
国債残高がいくら増えても大丈夫という,
直感的には危うすぎる論理です。
それが奇跡的に正しくても,
日本円はせいぜい他国通貨と同等であり,
他国通貨より信用できると考える理由にはなりません。
すなわち,
楽観論者の主張が正しければ日本円は一応問題なし,
楽観論者の主張が正しくなければ日本円は危ない。
そして,正しくない可能性が極めて高いと思われる。
なら念のため日本円に関わるのは避けておこう,
と考えるのが正常な感覚でしょう。
もしも,筆者が外国人投資家で,
先に述べた日本国債の日銀保有の実態を知ったら,
間違いなく,日本円に手を出すのは避けます。
現時点では,諸外国からの日本円の信用が
致命的に失墜しているということはありません。
しかし,国債残高が3000兆円,5000兆円ともなればどうでしょうね。
その時には,日本円は避けた方が無難というのが世界の常識となって,
日本円や日本株は大暴落の憂き目を見るに違いありません。
つまり,日本国債残高の無限増大に対する楽観論は,
たとえ正しくてもダメなのです。
国債の発行残高が少ないほど良いわけでもない
もっとも,筆者は,最終的には国債残高を
完全にゼロにしてしまうのが理想だとは
思っていません。
むしろ,国債を完全に返し切った状態を実現するのは
良くないことだと思っています。
返し切ってはいけないと考える理由については,
姉妹サイト<世界経済蘇生秘鑰>にて説明しています。
しかし,発行残高が増え続ける状態からは早めに脱し,
適正と思われる範囲内で増減するといった 安定状態 を
実現する必要があると考えているのです。
財政収支の均衡・黒字化は問題なく実現可能のはず
国債残高の増加を止めるためには,
当然ながら財政収支(プライマリーバランス)の黒字化,
少なくとも均衡が必要になりますが,
筆者は均衡も黒字化も問題なく可能だと考えています。
もちろん,経済を犠牲にすることなくです。
その実現方法や基礎となる考え方については,
姉妹サイト<世界経済蘇生秘鑰>で詳しく紹介していますので,
興味のある方はぜひ覗いてみてください。
- お急ぎの方は,理論の中核部分を解説した 概説ページ がおすすめです。🛎️
短い文書ではありませんが,極めて平易です。
標準的な高校生くらいの知識と読解力でも
すんなり大筋を理解できると思います。
まとめ
改めて,この記事の主張を以下に示します。
この記事で主張したこと
- 国債残高が際限なく増え続けるのはやはりNG。
どこかでは止めないといけないはず。 - 日本国債は,最近はまともに市中消化もできていない。
実質的には,日本政府が日本銀行に
国債を買わせているも同然。
すなわち,日本の財政規律は既に崩壊している。 - 日本国債の無限増大に対する楽観論はどれも無理筋。
それは多くの人が気づいているはず。
しかし,国債残高の減らし方が分からないので,
国債が増えても大丈夫という説に縋っているだけ。 - たとえ日本国債に対する楽観論が正しかったとしても,
このまま国債残高が増え続ければ,
念のため日本円から手を引こうという動きが
外国人投資家の間で広がる可能性が高い。🛎️ そうなれば,日本円や日本株の暴落は
避けられません。 - 国債を全て返し切って,
残高ゼロにしてしまう必要はない。
適正な範囲で国債残高が増減する
安定状態を目指したい。
読者様の思考の助けになる部分が
少しでもあれば幸いです。