記事情報 🛎️
独創性・確信度・効力は
自己評価です。
- 記事の状態: 有効(2025/11上旬時点)
- 所属カテゴリー:
【経済】
記事一覧 - 独創性: ★★★★
確信度: ★★★★
効力 : ★★
執筆時期・更新履歴 🛎️
更新履歴は,
重要だと思う変更のみ
記します。
- 2025/11上旬 初稿公開
🛎️
令和の米騒動継続中。
概算金急騰で新米価格もさらに上昇中。
コメの適正価格の議論が活発ですが…
2024年秋頃からでしょうか。
店頭から米が消え始め,米不足が顕在化し,
米価格の異常な高騰が始まりました。
その価格上昇率は,前年比1.5倍ないし2倍という
凄まじいものでした。
ご存じ,令和の米騒動ですね。
この記事の執筆時期は2025年11月ですが,
米価格の上昇ペースは鈍ったものの高止まりで,
現時点でも解決の糸口は見つかっていません。
そんな中,米の適正価格論争が活発ですね。
日本の米の適正価格論争
-
現在の日本の米価は高すぎる。
これでは非富裕層が買えない。 -
非富裕層が買える程度まで価格を下げると,
コメ農家が生活できない。
…どちらの意見も間違ってはいないと思うのですよ。
しかしですね,
大事な要素が抜け落ちたままで
表面的な価格論争だけしてません?
これが,この記事で言いたいことです。
結論を先に知りたい方へ
この記事の主張を先に確認したい方は,
次の開閉ボックスを開いてください。
この記事で主張すること
-
日本の米は高級品であるという認識が必要。
実際,国産米は外国産米に比べて
生産コストが非常に高く,
そのかわり味が良いというのは常識。
これは高級品以外の何物でもない。🛎️ 日本にも収量重視の品種はありますが,
それでも外国産米に比べれば
生産コストは圧倒的に高く,
高級品と言わざるをえません。 -
生産コストが高い高級食材を大量生産して
国民全員に食べさせる方針自体に無理がある。 -
経済合理性だけで考えるなら,
国産米は国内外の富裕層が食べる分だけ生産し,
非富裕層の需要は外国産米の輸入で賄うのが王道。🛎️ あくまで「経済合理性だけで考えるなら」です。
食料安全保障の観点もあるので,
必ずしもこれが解決策だと
主張しているわけではありません。 -
日本の現状は,生産コストが高い高級米を
非富裕層が食べる分まで作ってしまっている。
つまり,「高級品のわりには作りすぎ」である。 -
上に述べた現状を無視して適正価格論争をしていても
不毛である。 -
国民生活と食料安全保障を
両立する構想もないわけではない。🛎️ うまくすれば,現在の米の生産量を
大きく減らさずに済むかもしれません。
それでは,本論に入ります。
日本のコメ農政の異常性
国産米と外国産米の生産コスト格差
日本の米は,外国産米に比べて圧倒的に生産コストが高く,
そのかわり食味が良い。
これはもはや常識でしょう。
ネットで軽く調べた限りでは,
日本の米の生産コストは
外国産米の数倍にもなるとか。
日本にも収量重視の品種はありますが,
食味重視の品種に比べて
飛躍的に収量が増えるわけではないそうです。
国産米の生産コストを下げる努力はもちろん有益ですが,
それによって外国産米との生産コストの差が埋まることは
期待しない方が良いでしょう。
日本の米は基本的に高級品
繰り返しになりますが,
日本の米は,外国産米に比べて
圧倒的に生産コストが高く,
そのかわり食味が良いと言われます。
これは,高級品以外の何物でもありません。
既に述べた通り,収量重視の品種でも大差はなく,
日本で生産される主食用の米は
全てが高級品であると言って差し支えありません。
ちなみに,代替財となる小麦製品と比べても高級品です。
筆者の近隣の話で恐縮ですが,
主食用穀類について簡単な物価パトロールをしてみると,
次のような結果になりました。🛎️
調査時期は2025年10月下旬。
消費税別です。
| 品目 | 値段 |
|---|---|
| 国産米 | 650円 |
| 外国産米 | 600円 |
| 小麦粉(薄力粉) | 170円 |
| 小麦粉(強力粉) | 190円 |
| 食パン🛎️ 普通サイズの角形食パン3袋で算出。 | 240円 |
| パスタ | 200円 |
| 中華麺 | 400円 |
カロリー単価を比較するなら
食パン以外の各品目については,
1kg あたりの栄養価は似たようなものですので,
この結果をそのままカロリー単価の比較に使っても,
大きなずれを生じることはないでしょう。
なお,食パンについては,文部科学省の
「食品成分データベース」 をもとに換算すると,
カロリー数を他の品目と揃えた場合の
上述の食パンの値段は330円程度になるようです。
上の表はあくまで筆者の近隣での結果ですが,
ネットで見聞きする情報とも大きな食い違いはないので,
日本国内の多くの地域において
これくらい突出して米が高いことは間違いありません。
以上の話は,大半の日本国民の感覚と
概ね一致すると思われるので,
これ以上の詳説は不要かと思います。
外国産米も高価である理由
上の表を見ると,国産米だけでなく,
外国産米も小麦製品に比べて圧倒的に高価です。
その理由は,よく知られているように,
日本が外国産米にかけている,
非常に高い輸入関税です。
日本の業者が外国産米を輸入する時,
その業者は 1kg あたり 341 円の輸入関税を
日本政府に納めなければなりません。
上の表では,外国産米の小売価格(税別)は
1kg あたり 600 円となっていますが,
関税分が上乗せされているのだとすれば,
本来は 1kg あたり 260 円程度になると思われます。🛎️
実際はそれほど単純な話でもないようですが,
ここでは細かい話は重要でないので
これくらいにしておきます。
日本のコメ農政は,高級品を全国民に振る舞う方針
最近の日本における米価格の高騰については
冒頭に述べた通りですが,
今一度,日本の米作りを取り巻く環境を
整理してみます。
-
日本の米は,外国産米に比べて生産コストが圧倒的に高い。
そのかわりに味が良いというのが通説。
すなわち,国産米は外国産米に比べて
明らかに高級品。 -
日本にも収量重視の品種はあるが,
食味重視の品種と比べて,
極端に収量が多いわけではない。
よって,日本で作る米は全部高級品と考えてよい。 -
昔に比べて,外国産米の味は向上している。
日本人でも,炊いて食べるのに
支障はないという声が多くなった。 -
日本は,極めて高い関税で外国産米の輸入を制限している。
-
日本は,米の完全自給にこだわり続けており,
実際に完全自給をほぼ達成している。
これらをまとめると,現在の日本は,
生産コストの高い高級米を,
非富裕層も含めて全国民に行き渡るほどに
大量生産していることになります。
消費者視点で言いかえると,日本人にとって米は
必需品中の必需品であるにもかかわらず,
国内市場には高級品しかないのです。🛎️
外国産米も,日本政府が定めた
関税等の影響により結局高価であり,
流通量も少なめです。
その異常性はもっと注目されるべきだと思います。
特にデータ等は用意していませんが,
よく言われていることをもとにした単純な推論ですので,
すんなりご賛同いただけるでしょう。
適正価格など決められるはずがない
他の農産物や畜産物などがそうであるように,
生産コストの高い高級品から
生産コストの低い大衆品まで,
市場に幅広く出回っているなら,
適正価格についても考えやすいです。
仮に,米においてその市場環境が実現できていれば,
高級米は 5kg で6000円前後,
標準米は 5kg で2000円前後が
適正といった議論も可能でしょう。
しかし実際には高級米しか市場に存在せず,
非富裕層や貧困層まで
高級米を食べるよう促されている現状では,
議論が成立しません。
冒頭で述べた通り,
次のような水かけ論に陥ってしまいます。
日本の米の適正価格論争(再掲)
-
現在の日本の米価は高すぎる。
これでは非富裕層が買えない。 -
非富裕層が買える程度まで価格を下げると,
コメ農家が生活できない。
小麦に逃げる人々を誰も責めることはできない
前述のような市場環境では,
消費者側から次のような声が出るのも当然です。
-
米が高いので小麦消費を増やして
生活を防衛しなければ。 -
外国産米をもっと輸入して,
選択肢を増やしてくれ。
この状況を放っておくと,
ますます米離れが進むのは確実です。
食文化の変容や衰退,食料自給率の低下など,
様々な影響が懸念されます。
誰がどれだけ「米は高くない」と言い張っても,
このままでは米食文化や米作りが
衰退してしまうと危機感を訴えても,
より安価な小麦製品が安定して供給されている以上,
非富裕層・貧困層としては小麦製品を選ばざるをえません。
かと言って,単に外国産米の輸入を増やしたのでは,
日本の米作りが崩壊してしまうのも確かです。
「国産米は高級品」と認識することが第一歩
この問題の解決は難しいですが,
「国産米は高級品」と認識することが第一歩です。
その認識さえないのでは,
議論のスタートラインに立つこともできません。
世間の適正価格論争を見ていると,
専門家も含めて多くの人がその認識を欠いたまま,
あるいは意図的にその認識を排除して
意見を述べているように見えてならないのです。
逆に,「国産米は高級品」の認識さえあれば,
高級品である国産米を,非富裕層も含めて
日本人全員が食べられるほどに大量生産し,
実際に食べさせていることの異常性が理解できるでしょう。
この記事の表題で,日本の米の現状を
「高級品のわりには作りすぎ」と評したのは
そのような理由です。
これまで問題が表面化しなかったのはなぜか
以前は現在ほど貧富の格差が深刻でなかった
以前にも,今ほどではないにしろ,
米価が高騰した時期はありました。
しかし,これほど米価の高騰が深刻化・長期化したのは
初めてと言ってよいでしょう。
ではなぜ,以前はここまで深刻化しなかったのかという
疑問が出てきます。
理由はいくつか考えられますが,
貧富の格差が今ほど深刻でなかったことが
一因であることは間違いないと思います。
多分に想像を含みますが,
次のように考えればしっくりきます。
米価をめぐる情勢推移
- 1990年代前半あたりまで
貧富の格差が現在よりだいぶ小さかったため,
非富裕層でも生活の余裕がある世帯が多かった。
そのため,米価が多少高い時期でも,
米離れが起きにくかった。 - 2023年あたりまで
貧富の格差が急速に拡大し,
高い米は買えない世帯が激増した。
米を販売する業者は,代替財である小麦製品との
価格競争につきあわざるをえなくなり,
米価が低迷した。 - 現在
貧富の格差拡大が進み,
経営に余裕がない生産・販売業者が激増したため,
利益の維持拡大の成算もないままに,
米を含めて様々な商品を値上げせざるをえなくなった。
これらの点について,もう少しだけ考察を深めてみます。
以前は,米を食べるなら国産米しかなかった
1993年の冷害による「平成の米騒動」を
記憶されている方は多いでしょう。
冷害により日本国内の米が著しく不足したため
タイ産米を緊急輸入したのですが,
炊飯向きの米ではなかったため,
食べるかどうか,食べるならどう食べるかで
紛糾したという騒動です。
その頃の日本は,米の輸入を禁止していましたが,
緊急輸入したのが炊飯に向かない
米だったことからも分かるように,
日本人の食生活に合う米を外国から大量輸入するという
選択肢はなかったと考えられます。
その後,米の輸入は限定的に解禁されますが,
日本政府が高い輸入関税を設定したため,
「米を食べるなら国産」という日本人の意識は
ごく最近まで保たれてきました。
バブル期までの日本は,
米が少々高くとも米食にこだわれた
バブル期あたりまでの日本では,
現在に比べて貧富の格差がだいぶ小さかったことは
疑いないでしょう。
すなわち,非富裕層にも
生活の余裕がある世帯が多かったわけです。
米価がやや高い時期もありましたが,
米を食べたい時でも我慢して
安価な小麦製品の消費を増やそうとする流れが
広がらなかったのも不思議なことではありません。
少し前までは,小麦製品との価格競争につきあっていた
しかし,21世紀に入ってからの日本は,
貧富の格差が急拡大していきます。
それに伴い,米が高いなら小麦を選ぶ世帯が
急増したことが容易に推察できます。
ゆえに,米の生産や販売に関わる業者は,
生産コストの低い外国産小麦製品との価格競争に
つきあわざるをえなくなったのでしょう。
実際,2023年頃までは,米はかなり安価で,
小麦製品と比べても遜色ないほどの低価格でした。
むしろ,米の価格が安すぎて農家が十分に儲からず,
新たな農家のなり手が不足しているという問題が
指摘されるようになっていました。
消費者にとってはありがたい時期でしたが,
これはこれで不健全な状態だったと
言わざるをえません。
今は,米も物価上昇の波に乗ってしまった
貧富の格差拡大は,生産者や卸売業者,
小売業者にも及びます。
現在の日本において,経営に余裕のない業者が
以前より大幅に増えていることは
明らかと考えてよいでしょう。
そして,経営難の多くの業者が,
米に限らず各商品の売値を上げつつも
販売数量を減らさないようにすることで
生き残りを図っているというのが,
現在の日本の物価高の正体かと思います。
もちろん,各商品の販売価格は,高くすればするほど
総利益が上がるものではありません。
価格を上げすぎれば消費者が離れ,
総利益が下がりうることは誰でも知っています。
しかし,あまりにも経営に余裕がないため,
利益を維持する成算もなく
苦しまぎれに値上げに走っているのが
日本の現状だと考えれば,
何ら矛盾もなくしっくりきます。
そして,もともと生産コストの高い国産米は,
とりわけ大幅に値上げせざるをえない品目なのでしょう。
外国産米の大量輸入だけでは解決にならない
外国産米も以前ほど不味くない
1993年の冷害によるタイ米騒動を記憶している人は,
外国産米は不味いというイメージが強いかもしれませんが,
それはもう昔の話と言ってよいでしょう。
国産米ほど美味ではないにしろ,
日本人が日常的に炊いて食べるのに支障がない程度には,
食味が向上しているとの評価が一般的です。
そもそも,タイ米騒動の時に輸入されたタイ産米は,
炊飯に向かない長粒種でした。
もしかしたら,
「昨今の外国産米は食味が向上した」というよりは,
炊飯に向く短粒種の栽培が海外でも盛んになり,
国外輸出用(日本向けなど)の短粒種を
十分確保できるようになったというのが
実情に近いかもしれません。
いずれにせよ,日本人の舌に合う外国産米を
ある程度輸入できる環境になったことは確かです。
外国産米の輸入自体には賛成
昨今の米価高騰を受けて,
次のような声が大きくなってきていますね。
外国産米の輸入関税を引き下げて
大量輸入すればよい。
非富裕層はそれを食べて,
高い国産米は富裕層が食べればよい。
ここでの「富裕層」は億万長者のレベルではなく…
この記事における「富裕層」は,
億万長者とかではなく,
美味しい食材のためなら多めにお金を
出してもよいという程度の層を指します。
筆者は,この意見には基本的に賛成です。
非富裕層は安い米を食べろと言うのか
のような感情論につきあう必要はないです。
筆者は明らかに非富裕層ですが,
富裕層と非富裕層の格差として,
余裕で許容されるべき差だと思います。
実際,他の食品については
そうなっているではありませんか。
筆者がすぐに思いついた例は食肉です。
牛肉・豚肉・鶏肉ですね。
非富裕層は安価な外国産の肉を食べて,
国産の高級肉は富裕層が食べればよいのです。
これは現時点で既に実現されていることですが,
誰も文句を言いませんよね。
その一方で,米だけは日本人全員が
国産の高級品を食べなければならないと
固執する理由はないでしょう。
昔のように,炊飯に向く短粒種の米が
ほとんど輸入できない環境なら
国産米にこだわるのも仕方ないと思いますが,
今はもう,日本の食卓に合う外国産米が
十分に輸入可能なのですから。
「非富裕層は小麦を食べればよい」はさすがに行きすぎ
現在の日本では,米は国産も外国産も高価ですが,
それに比べて小麦製品は非常に安価です。
筆者は,個人的には,
「非富裕層は小麦を食べればよい」と言われても
別に文句はありません。
しかし,政策方針としては不可でしょう。
小麦はグルテンが気になる人もいるそうですし,
実際に体質が合わない人も少なくないと聞きます。
また,人の生き死にに比べれば
軽い問題かもしれませんが,
米食文化が富裕層だけのものに
なってしまうというデメリットも,
できれば避けたいところです。
余った国産米はどこに行けばよいのか
前述の通り,筆者は外国産米の輸入に
基本的には賛成ですが,懸念点があります。
外国産米の輸入によって余った国産米は
どこに行けばよいのか?という問題です。
日本は,米については完全自給をほぼ達成しています。
もしも,日本が米の生産量を減らすことなく
関税を下げて外国産米の輸入を大々的に行った場合,
当然,日本国内で米が大量に余ります。
それは米価の暴落を引き起こすという予想は
よく言われていることであり,
現在の日本はそれを防ぐために
米に対して非常に高い関税を課しているわけです。
その問題が未解決のまま
外国産米の輸入を奨励することはできません。
国内の米の生産量を減らすと,
食料安全保障が気になる
現在の日本における米の需要は,
概ね次の通りでしょう。
- 安くて味がそこそこの米の需要が多い。
- 高くて味が非常に良い米の需要は限定的。
日本人の志向は昔からこの通りだったと思われますが,
以前は日本人の舌に合う外国産米は生産量が少なく,
たとえ関税障壁がなくとも大量輸入は困難でした。
しかし現在は,関税さえなければ
そこそこの味の外国産米を
かなりの量輸入することが可能になっています。
その状況下で経済合理性を重視するなら,
次のような方針になるはずです。
-
米の輸入関税を引き下げて,
必要なだけ外国産米を輸入する。 -
日本国内での米の生産は,
国内外の富裕層や食通の層が食べる分だけにする。 -
国産米の生産量を減らしたことで
使われなくなった水田用地は,
他の作物の栽培などに有効活用する。
ただし,この方針では,
国産米の生産を大きく減らすことになるため,
他の作物の生産量をうまく増やせなければ,
食料安全保障上の懸念が残ります。
すなわち,国際紛争や世界的な米の不作などにより,
日本国内への外国産米の輸入が滞った場合に,
深刻な米不足に陥るおそれがあります。
解決策を考えるなら,
そのあたりも考慮に入れる必要があります。
生産コスト低減は有益だが
解決策としては期待しにくい
国産米の生産コストを下げても,
他国で同じことをされたら差は縮まらない
国産米の生産コストを下げる取り組みについても
よく耳にします。
その取り組み自体は有益で,
かつ消費者としてはありがたいことです。
このようなコストカットの取り組みによって
外国産の米や小麦との生産コストの差が縮まり,
日本のコメ問題が全面的に解決すると
期待する向きもあるでしょう。
そうなれば素晴らしいことです。
しかしそれは期待しすぎだと思います。
現状の生産コストの差が大きすぎるということもありますが,
それだけではありません。
もしも,米の生産コストを劇的に下げる
品種や手法が開発され,
日本以外ではそれによる改善効果が見込めないなら,
国産米の生産コストが下がり,
外国産米との生産コスト差は縮まると言えます。
しかし,日本国内限定の改善策ではないとすると,
海外でも同じ品種や手法を取り入れれば
外国産米の生産コストがさらに下がるため,
国産米と外国産米の生産コストの差は
縮まらないということも十分にありえます。🛎️
その手法が小麦生産にも応用できるなら,
外国産小麦の生産コストも下がるかもしれません。
結局のところ,海外には安くて
炊飯にもそれなりに適した米があるのに,
日本人は貧困層でも相対的に極めて高い米を
食べなければならない現状は変わらないことになります。
「小麦にも高関税」という奇策も考えましたが…
現在,日本国民の米離れが危惧されている理由は,
米が小麦製品よりはるかに高価になっているからです。
そして,国民の米離れが進めば米作りも危ういというのが
日本のコメ問題です。
ならば,
小麦製品にも高い関税をかけ,
米と小麦製品の国内流通価格の差を縮めれば,
米離れを防げるのでは?
という奇策も頭に浮かびましたが。
やはり,その方針はダメでしょう。
それでは日本は完全に,
主食用穀物が非常に高価な国になってしまいます。
海外産の安価な小麦製品により
何とか生計を立てていた人たちを
谷底に突き落とす行為です。
それを防ぐために,小麦の関税収入を使って
国内の米価を抑えるといった方策も脳裏をよぎりましたが,
WTO違反になりかねませんし,
相手国の報復措置(禁輸など)により
小麦を輸入できなくなるリスクさえあり,
やはり無理がありすぎる気がします。
解決方針の案
日本産米の国外需要を増やせるなら
打てる手はあるかもしれない
既に述べた通り,少なくとも現状では,
日本産の米は高級品と考えざるをえません。
そして,高級品である以上,
生産量が富裕層や食通の層が食べる量を大きく超えると,
値崩れを起こしてしまいます。
ちょうど,少し前の日本で起きていたようにです。🛎️
前述のように,2023年頃までは,
米は全体的に非常に安価でした。
かといって,安易に日本の米の生産量を大幅に減らすと,
食料安全保障上の懸念が生じます。
しかし,日本産米の国外需要を
大幅に増やすことができるなら,
次のような解決指針がありうるかもしれません。
-
平常時は,米の輸入関税を引き下げて,
必要なだけ外国産米を輸入する。🛎️ 備蓄米も基本的には
外国産米で構成します。 -
日本国内での米の生産量は
現在と変わらない水準を維持する。
ただし,その大半を日本国民に売るのではなく,
国内外の富裕層や食通の層への販売を主とする。 -
日本産米の大量輸出を前提に,
積極的に販路の開拓を行う。 -
国際紛争や世界的な米の不作等により,
外国産米の輸入が滞った場合は,
輸出用国産米の一部(極端な場合は全部)を
国内需要に充てる。
要するに,高級品路線に切りかえてしまうわけですね。
現在の日本は,国産米の大半を
日本国内向けに販売しているので,
おそらくですが,海外での販路開拓を
全力で行ってはいないと思います。
もしも,海外での販路開拓を大いに行って,
日本産米の需要を十分に確保できれば,
この戦略が成立する可能性はあるのではないでしょうか。
日本の米は「美味しい」のか「和食に合う」のか
日本の米は美味しいという話はよく聞きますが,
もしかしたら和食に合うだけなのかも,
という気もします。
それはそれで販路開拓のしようはあると思いますが。
最も悪い想定は,
日本の米を美味しいと感じる外国人が少ない場合
ですね。
それだとちょっと打つ手がないので,
そうでないことを祈るばかりです。
高級品路線一辺倒は禁物
正直なところ,上記の高級品路線が
うまくいくかどうかは分かりません。
極めて大きい生産コストの差を覆して
日本産の米を選んでもらえるほどに
食味の差が明らかでないと成り立たない方針ですので。
仮に,現時点では海外の人にとっても
日本産米が圧倒的に美味しいとしても,
外国産米に食味の差を縮められれば,
日本産米を選んでもらえなくなるおそれがあります。
そのようなケースも想定に入れて,
生産量をコントロールする必要があるでしょう。
現在の国内生産量を維持することにこだわると,
高級米として販売しきれなくなった時に困ります。
日本の米の生産量を今よりは減らしつつ,
より生産コストの低い代替作物の生産量を増やすといった
安全策も考える必要があるかもしれません。
生産コスト低減の努力も引き続き必要
この記事では国産米の高級品路線を打ち出しましたが,
国産米が高級品であり続けることを
よしとしているわけではありません。
高級品であろうとなかろうと,
海外市場であろうと国内市場であろうと,
安い方が売れることは間違いないので,
生産コストを低減する研究は引き続き必要です。
それによって,国産米の生産コストが
多少なりとも下がれば,
国産米が現在ほど高級品ではなくなるので,
より多くの国民が国産米を
食べられるようにもなるでしょう。🛎️
米の輸出入を自由化して,
日本国内の非富裕層が外国産米を食べることが
常態化した場合において,という意味です。
国産米の生産コストが大幅に下がれば,
今まで通り,一般大衆向け食品として扱うことも
できるかもしれません。
これは1か0かではなく程度の問題であり,
生産コストが下がれば下がるほど
実行可能な政策の幅が広くなります。
決して,今後は高級米路線で突っ走ろうと
提言しているわけではないことにご注意ください。
むしろ,海外産米が日本産米の食味に追いついてくる前に
生産コストの差を縮めないと,
日本の米作りが再び苦境に立たされる可能性は高いです。
コメ政策議論のスタートラインに立つために
いずれにせよ,日本のコメ戦略を考えるなら,まず,
現在の日本は,高級米を日本国民全員に
食べさせる方針になってしまっており,
経済合理性において無理がありすぎる
という現状認識を共有する必要があります。
そして,「経済合理性 vs 食料安全保障」という
構図くらいは念頭に置いて議論すべきでしょう。
この記事の目的は,政策提言ではなく,
重要な視点の欠落により実効なき政策論争に
なっていないかと問題提起することです。
細かな政策パッケージを提案するほど
農政に詳しくはないので,
コメ政策の提言はこのへんにしておきます。
根本的に解決するなら,
貧富の格差の緩和が必要
コメ問題の解決策について色々考えてきましたが,
私が出した案は,開きすぎた貧富の格差を
そのままにしてコメ問題だけ解決するという
姑息なものです。
昔のように,貧富の格差がさほどひどくなく,
非富裕層でも多少は生活の余裕を
感じられる社会を実現できるなら,
「米は多少高くても食べる」という
以前のような風潮を取り戻せるかもしれません。
仮にそうなっても,市場に高級米しかない現状は
修正した方が良いでしょうが,
貧富の格差を緩和すれば,
コメ問題も緩和しやすくなることは間違いないでしょう。
しかし,従来のマクロ経済学に則って
経済運営が行われる限り,
貧富の格差が本格的に緩和されることは
まずありえないというのが筆者の持論です。
そのように考える理由と解決指針については,
姉妹サイト<世界経済蘇生秘鑰>で
詳細に説明していますので,
興味のある方はぜひご覧ください。
- お急ぎの方は,理論の中核部分を解説した 概説ページ がおすすめです。🛎️
短い文書ではありませんが,極めて平易です。
標準的な高校生くらいの知識と読解力でも
すんなり大筋を理解できると思います。
まとめ
改めて,この記事の主張を以下に示します。
この記事で主張したこと
-
日本の米は高級品であるという認識が必要。
実際,国産米は外国産米に比べて
生産コストが非常に高く,
そのかわり味が良いというのは常識。
これは高級品以外の何物でもない。🛎️ 日本にも収量重視の品種はありますが,
それでも外国産米に比べれば
生産コストは圧倒的に高く,
高級品と言わざるをえません。 -
生産コストが高い高級食材を大量生産して
国民全員に食べさせる方針自体に無理がある。 -
経済合理性だけで考えるなら,
国産米は国内外の富裕層が食べる分だけ生産し,
非富裕層の需要は外国産米の輸入で賄うのが王道。🛎️ あくまで「経済合理性だけで考えるなら」です。
食料安全保障の観点もあるので,
必ずしもこれが解決策だと
主張しているわけではありません。 -
日本の現状は,生産コストが高い高級米を
非富裕層が食べる分まで作ってしまっている。
つまり,「高級品のわりには作りすぎ」である。 -
上に述べた現状を無視して適正価格論争をしていても
不毛である。 -
国民生活と食料安全保障を
両立する構想もないわけではない。🛎️ うまくすれば,現在の米の生産量を
大きく減らさずに済むかもしれません。
記事の後半では政策提言のようなことも行いましたが,
それほど自信があるわけではありません。
細かい政策パッケージの策定については
専門家の先生方におまかせしたいと思います。
筆者はただ,国産米に関する世間の適正価格論争を見ていて,
これらの視点が欠落したまま論争しても
解決は遠いのでは?
と言いたかっただけです。
読者様の思考の助けになる部分が
少しでもあれば幸いです。