異様なまでにフローを重視し
ストックを軽視する既存の経済学

2023/07/21

📂経済学の違和感 フローとストック 違和感Lv.4

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  • 2023/07下旬 初稿公開

各世帯の貯蓄残高は,消費行動に影響を与えない?

既存のマクロ経済学では,
ある期間に動いたお金の量(フロー)を重視し,
これまでに積み上げられたお金の量(ストック)については
深く考えないようです。

これは,物理学において,速度ばかり重視して
変位(物体の位置)を軽視するようなものだと思います。

既存のマクロ経済学に対し,
筆者が特に明確に違和感を持ったのは,
所得を重視し,貯蓄残高を軽視 する点でした。

人が自分の現在の経済的状況や
今後の消費行動を検討する場合,
所得の多寡はもちろんですが,
現時点での貯蓄残高(借金があればマイナス勘定)
大きな判断材料になります。

しかし,既存の経済学では,
各世帯の消費額は主に所得に左右されるものと考え,
貯蓄残高による影響は考慮しません。

GDPや貧富の格差などについても,
分析対象になるのは所得ばかりで,
貯蓄残高はほぼ無視です。

それは,実態とかけ離れているということに
ならないのでしょうか。

当記事では,上記の疑問について考察します。

結論を先に知りたい方へ

この記事の主張を先に確認したい方は,
次の開閉ボックスを開いてください。

この記事で主張すること
  • 現在世界で通用している経済学は,
    異様なまでにフローを重視し,
    ストックを軽視する。
  • 非富裕層の経済状況は,
    所得の低下よりも 貯蓄残高の低下 に
    深刻さがあると思われる。
  • 現在世界で通用している経済学では,
    社会全体で貯蓄残高が低い世帯が
    大幅に増えたとしても,
    検知できないし分析できないと思われる。

それでは,本論に入ります。

貯金額だけが異なる世帯を比較してみる

次のような2つの世帯を思い浮かべてみてください。
(世帯の構成など,他の条件は同一とします。)

  • 世帯A:収入源は世帯主のみ,年収400万円,
        現在の貯金額500万円,借金なし
  • 世帯B:収入源は世帯主のみ,年収400万円,
        現在の貯金額30万円,借金なし

この2つの世帯の違いは貯金額だけですが,
Aの方が消費意欲が高いことは疑いの余地がありません。

また,生活に対する不安感も大きく異なるはずです。

Aの世帯主は,仮に失業したとしても,
1年間くらいは無職のままでも大丈夫でしょう。

一方,Bの世帯主は,万が一失業したら,
すぐに生活資金が底を突きます。

もしも,借金や生活保護の審査に落ちて
生活資金を確保できなければ,
一家が路頭に迷いかねない状況です。

しかし,従来の経済学はこの違いを考慮に入れません

国民の消費意欲は,主に所得により決定し,
貯蓄残高はほとんど関係ないことが前提になっています。

貯蓄残高の違いによる精神的な余裕の差も,
分析の対象外です。

上記の例の2世帯は年収が同じだから,
経済的な状況は ほぼ同等。

Aのような世帯が多い社会でも,
Bのような世帯が多い社会でも,
別に何も違わない。

それが既存のマクロ経済学です。

筆者は昔,経済学を学びながら,
この経済学で本当に大丈夫かと思ったものです。

日本経済の現状(仮説)

日本のGDPは,
長らく伸び悩んでいると言われていますが,
大きく下がっているわけではありません。

それでも,所得の格差が広がれば,
非富裕層の所得は減ることになるので,
それが日本の現状だと考える説も
正しいかもしれないとは思います。

ただ,筆者は,所得よりも,
非富裕層の貯蓄残高の減少の方が
深刻になっているのではないかと考えています。

すなわち,前出のAのような世帯が減ってBのような世帯が増え,
多くの世帯が貯蓄残高の低空飛行を
強いられるようになったということです。

そちらの方が,日本の家計の現状を
より正確に言い表せているのではないかと思います。

なお,同様のことが企業についても言えそうです。

あくまで筆者による仮説ですが,
現代の日本は,以前に比べて,
貯蓄残高の低い,あるいは債務超過の世帯や企業が
全国的に増えているに違いないと考えています。

仮に,非富裕層の所得が昔から変化していなくても,
非富裕層の貯蓄残高が昔より
減っている可能性はあります。

その状況を実現させる要因を,
次の記事にて仮説として示しています。

参考記事:
今と昔の世帯を比べると,所得が同等でも,
今の方が生活が苦しいのでは?

問題は,既存の経済学では
その状態を分析できないこと

問題は,既存の経済学では,
貯蓄残高の低い世帯・企業だらけになってしまった経済を
ろくに分析できないことです。

既存のマクロ経済学では,基本的に,
フローの数値(所得等)を使った理論が展開されます。

そのため,ストックの数値(貯蓄残高等)
大きな変化があっても,
それを分析に反映させることができないのです。🛎️ 少なくとも,筆者が知る程度の
基本的なマクロ経済学では
そうであるはず。

ですから,実際に日本の現状が
筆者の仮説の通りであるかはともかくとして,
日本経済がそのような状態になったとしても,
既存の経済学はおそらくそれを
検知・分析できないであろうということです。

一理あると思う方はぜひこの観点で調査分析を

前述の,日本経済の現状に関する筆者の仮説は,
個人的に疑っているだけのものであり,
これを後押しするデータなどはありません。

しかし,長期的にGDPが下がっているわけではない,
つまり国民の所得が大きく下がっているわけでは
ないと思われるにもかかわらず
生活苦を訴える国民が激増している現状を見ると,
感覚的には納得できるのではないかと思います。

経済の専門家の方が,この仮説に一理ありと
考えてくださるのであれば,
ぜひこの観点でデータ収集や調査分析を
行ってみていただきたいと思っています。

この仮説を補強する考察ならある

この仮説を後押しするデータはないと述べましたが,
この仮説を補強する考察ならあります。

それもあくまで考察止まりですが,
本格的な調査研究の足がかりとしては
非常に有用なのではないかと思っています。

その考察は,姉妹サイト<世界経済蘇生秘鑰>で
公開しています。

資本主義社会において貧困層が拡大する
メカニズムの解明なども試みていますので,
気になる方はぜひそちらもご覧ください。

まとめ

改めて,この記事の主張を以下に示します。

この記事で主張したこと
  • 現在世界で通用している経済学は,
    異様なまでにフローを重視し,
    ストックを軽視する。
  • 非富裕層の経済状況は,
    所得の低下よりも 貯蓄残高の低下 に
    深刻さがあると思われる。
  • 現在世界で通用している経済学では,
    社会全体で貯蓄残高が低い世帯が
    大幅に増えたとしても,
    検知できないし分析できないと思われる。

読者様の思考の助けになる部分が
少しでもあれば幸いです。

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筆者について


「累積黒字の考え方」と題する
経済学試論の創始者。
並びに,上記試論を紹介するサイト
世界経済蘇生秘鑰>の創設者。

既存の経済学に
非常に詳しいわけではなく,
大学教養課程レベルの
マクロ・ミクロ経済学を
ひと通り学んだ程度と自己評価。

しかし,従来の経済学に
どっぷり浸かっていなかったからこそ,
従来の経済学と全く視点の異なる
上記試論が出てきたのではないかと
思っている。

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